アルスター一家が屋敷に泊まるようになってからすでに3日が経った。
ガルバン様が言っていたように、ガルバン様たちと一緒に来た兵士の皆さんは屋敷の敷地内でテントを張ってそこで過ごしている。
広いだけで、噴水などが有るだけの庭に今では兵士の人達の訓練する声などが聞こえてくるようになった。その中に時々父さんの姿があるけど、ガルバン様に鍛えてやって欲しいと頼まれたのだと後から聞いた。
あの日、食事の時には寝てしまっていたフィリアだけど、世の食事の時には起きてきて、その時にちゃんと挨拶が出来た。
そのあとすぐにアスティと一緒にお話をしていたので、とても仲良くなったとフィリアからもアスティからも聞いている。
妹と仲良くしてくれるのは凄くうれしい。今まではあまり人との付き合いの無かったフィリアだけど、お姉ちゃんが出来たととても喜んでいた。
そんな中で僕の方はというと――。
「ロイド、魔法はどのような属性があるかは知っているか?」
「はい。ガルバン様」
「言ってみろ」
「火、水、土、風、光、そして闇です」
「そうだ」
朝からお昼の鐘が鳴るまでフレックと共に勉強していた時間に、ガルバン様からの魔法の勉強時間も組み込まれた。
屋敷の中で使われていなかった部屋を少し片づけ、そこに机や椅子を用意して、アスティと共に並んで教えてもらっている。
「でも……」
「ん? 何か分からないところがあるのか?」
「え? いやでも……」
「いいから言ってみなさい」
「はい……。本当に属性はそれだけなんですか?」<
「――と、いうわけで、今日からこのヨームというモノを使っていきます。何か聞きたいことはありますか?」 僕が心配していた通り、中庭へと集まってもらった人達の中には、こそこそと何か話をする人もいたけれど、父さんの一喝によってそんな声も静かになった。 僕が話を始める前には、アルスター家当主としてガルバン様も、僕の考えたものを採用すると宣言してくれた。 僕が何も説明する前にガルバン様が言ってくれた事で、僕を支持すると言ってくれたのも同じ事。だからアルスター家の方からは何も声が上がらない。「ちょっといいでしょうか?」「はいどうぞ」 スッと手を上げたのはアイザック家のメイド長コルマ。「それはどのような効果が有るのでしょうか?」「それは――」「それは私が説明しよう」 僕がコルマの質問に答えようとしたら、ガルバン様が僕を手で制しながら、コルマへ答えた。「実の所、このヨームは今日から始めたから直ぐに結果がわかるというモノではない。しかも使っている人と使っていない人でその差は出にくい。何故なら使わない人達にはその考えすらないのだから。しかしこれから先はこのヨームを使う事で必ず便利だと思う時が来る。必ずだ。それはわたしが保障しよう。そうでなければアルスター家も同じ日にヨームの使用を開始するとは言わない」「……分かりました。私達もしっかりとヨームに関しては理解したいと思います」「よろしく頼む。そしてもっと大事な事が有る」「それは?」 コルマだけではなく、その場にいる皆がガルバン様の言葉を待っている。「これを考えたのがここにいるロイドだという事だ!!」 ガルバン様の言った事でその場が少しだけざわついた。&nbs
「マクサス」「ん?」「どうやらお前の息子はとんでもない奴だったようだな」「そうなのか? 私には……いや俺にはさっぱりわからんが」 ガルバン様に対してかなり乱暴な言葉遣いになってきている父さん。しかしそれを全く気にした様子が無いガルバン様。僕はそちらの方が気になってしまった。 テーブルの上の物をいじりながら、近くに集っていた人たちが何やら話を始めているが、僕は説明が上手く伝わったことに安心して、テーブルから離れ一人ソファーへ深く沈みこむようにして座り、大きく息を吐いた。「はいロイド」 そう声を掛けてくれつつ、僕の前にお茶の入ったカップを置いてくれるアスティ。「ありがとうアスティ」「ううん」「うまく伝わったかな?」「そうね。見てみたらわかるわよ。お父様をはじめお母様まで凄く楽しそうにお話をしてるわ」「そうか……良かった」「ちょっとカッコ良かったわ」 そんな事を言いつつ僕の横へすとんと腰を下ろすアスティ。とアスティはそのまま盛り上がっている周りをよそに、お茶をゆっくりと飲み始めた。「ロイド」「はい」 しばらくはあーでもないこーでもないと話が弾んでいた皆だったけど、ガルバン様から僕の方へ声がかかると、そのみんなが僕へと視線を向ける。「それで、コレら二つの名前はどうするんだ?」「え? あ!? か、考えてませんでした……」「そういうところは抜けているんだな。ちょっと安心したぞ」「すみません」 僕がぺこりと頭を下げると、何故横にいたアスティも一緒に頭を下げた。
お昼の鐘が鳴り、ダイニングにてみんなで食事をしてサロンでみんなとお茶を飲んでいると、ドアをノックする音が聞こえて来た。「フレッグです。宜しいでしょうか?」「よし、入れ!!」「失礼いたします」 サロンの中へ入ってくるフレックの手には、3日前にガルバン様が頼んでいたものと思わしき物がもたれている。 続いて入ってきたテッサもフレックと同じものを持っていた。「旦那様、伯爵様、先日の物が出来上がりましたのでお持ちいたしました」「おう!! できたか!!」「どれ……見せてくれ」 ガルバン様が興奮するのをよそに、お父さんは興味なさげにしている。 サロンの真中までフレックとテッサが近寄り、その真ん中にあるテーブルの上へと荷物を置いた。ガラン――がらんがらん!!ドサドサ!!置く時に思っていた以上に大きな音がしたので、それまで興味なかった母さんとメイリン様も、音のした方へと身体の向きを変えた。「ん? どういうことだ? 言っていたものと形が違う様な気がするんだが?」「はい、これは製作中の工房にロイド様がいらしてですね、このように変えたものも造ってくれと頼まれまして。それで時間がかかってしまいました」「ロイドが?」 その瞬間に僕の方へと全員の視線が集まる。「ロイド、どういうことだ? あれで完成ではないのか?」「う~ん……あれはあれで完成形の一つだよ」「なに?」「完成形の一つ……だと?」「うん」 そこに有ったのは、以前にサロンで話していた形のモノと、もう一組のモノ。その一つを手に取りながら、僕は
アルスター一家が屋敷に泊まるようになってからすでに3日が経った。 ガルバン様が言っていたように、ガルバン様たちと一緒に来た兵士の皆さんは屋敷の敷地内でテントを張ってそこで過ごしている。 広いだけで、噴水などが有るだけの庭に今では兵士の人達の訓練する声などが聞こえてくるようになった。その中に時々父さんの姿があるけど、ガルバン様に鍛えてやって欲しいと頼まれたのだと後から聞いた。 あの日、食事の時には寝てしまっていたフィリアだけど、世の食事の時には起きてきて、その時にちゃんと挨拶が出来た。 そのあとすぐにアスティと一緒にお話をしていたので、とても仲良くなったとフィリアからもアスティからも聞いている。妹と仲良くしてくれるのは凄くうれしい。今まではあまり人との付き合いの無かったフィリアだけど、お姉ちゃんが出来たととても喜んでいた。 そんな中で僕の方はというと――。「ロイド、魔法はどのような属性があるかは知っているか?」「はい。ガルバン様」「言ってみろ」「火、水、土、風、光、そして闇です」「そうだ」 朝からお昼の鐘が鳴るまでフレックと共に勉強していた時間に、ガルバン様からの魔法の勉強時間も組み込まれた。屋敷の中で使われていなかった部屋を少し片づけ、そこに机や椅子を用意して、アスティと共に並んで教えてもらっている。「でも……」「ん? 何か分からないところがあるのか?」「え? いやでも……」「いいから言ってみなさい」「はい……。本当に属性はそれだけなんですか?」
「ガルバン様、先ほどのお話は本気なのですか?」「ん?」「いや、ですからロイドと婚約という話です」「あぁ。なんだまだ渋っているのか?」「いや、そういうわけでは……」 伯爵様の正式な婚約者としての申込という話をされてから、伯爵様はテーブルの上で何やら書類のようなものを書き始めてしまうし。アスティは母さんとお妃様の所へ連れていかれて、何か話をされつつ盛り上がっている。 父さんはまだ複雑な表情をしながら、伯爵様へと何度も問いただしてはいるけど、僕が感じる限りでは伯爵様から「辞める」という言葉が出てくる事は無いと思う。「良し出来た!!」「それは?」 伯爵様が書き上げた何枚にもなる書類に、最後にサインをしてから伯爵様の執事さんへとそれを手渡した。 手渡された書類に目を通す執事さん。「結構でございます」「うむ。ではそれに判をして封をしてくれ。一通はアイザック家へ、一通は爺さんへ、そして一通は国王陛下へ送付しておいてくれ」「かしこまりました」 ペコリと言一礼して部屋から出て行く執事さん。「あの……ガルバン様?」「あぁ、すまん。今のはアルスター家の娘アスティと、アイザック家の息子であるロイドとの間に正式に婚約をしたという証明書だ」「え? もう書かれたのですか?」「こういうのは早い方がイイからな。それに王家には直ぐに送るように手配はしてある」「はぁ……」 ガハハと笑う伯爵様に父さんも少し呆れた顔をしていた。「ロイド君。いやもうロイドでいいかな」「はい」「私の事もガルバンと呼んでくれ。まだお
「それで話というのは?」 笑っていた伯爵様たちだったが、僕らの方へと視線を向け直すと、その表情は真剣なものに変わっていた。「は、はい!! ロイドからお話を聞いて、すごく感動したのです。ですがどうしたらいいのか分からなかったので、お父様にロイドの話を聞いてもらおうかと思っていました」「私に、ロイド君の話を?」「はい」 アスティの話を聞きくと、伯爵様の視線が僕の方へと向けられる。「どんな話なのか聞かせてもらおうか」「……分かりました」「マクサスいいかな?」「もちろん。ロイド話してみなさい」「では話します……。でも本当に思い付きで考えていた事なので、たいした事じゃないですよ?」「それは……まずは話を聞いてからだな」 伯爵様夫婦と父さん母さんが顔を見合わせこくりと頷きあう。僕は凸大きなため息をついてから、みんなの前で先ほどまでアスティとしていた話を始めた。「ふむ。ソレがどうしたのかな?」「特に変なところも不思議なところもないと思うが」 伯爵様たちが街に留まっていたという所までを一気に話すと、伯爵様も父さんも特に表情も変えずに答える。「僕が言いたいのはここからなんです」 僕がいうと伯爵様は黙ってうなずいた。「この国は1年が360日と決まってますよね?」「そうだな」「どうやって数えてますか?」「うん? それは……1年の始まりを始まりの月とか、二つ目の月とか、日にちはその月の何日目とかだな」